比較生理生化学
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総説
アメフラシ類の化学防御機構:捕食者と同種個体の化学感覚に働く複数の化学物質
神尾 道也
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2012 年 29 巻 1 号 p. 11-17

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抄録

 殻を持たない軟体動物であるアメフラシの仲間は,体が軟らかくて傷つきやすい上に,動きが緩慢であることから,皮膚または皮膚からの分泌物に含まれた物質による化学防御により捕食者から身を守っていると考えられる。さらに,アメフラシは化学防御物質を多く含む紅藻類や藍藻類を好んで食べるので,これらの植物の持つ物質を自分の化学防御の原料として用いるのだろうと考えられてきた。しかしながら,この「皮膚に含まれる海藻由来の2次代謝物による防御」仮説を満足に支持するような実験結果は得られておらず,研究者間で意見が分かれている。また,アメフラシは攻撃を受けた時に紫色の液体を放出することから,この液体による煙幕で捕食者の視界を撹乱して逃げる,または,この液体に含まれる化合物で捕食者の味覚や嗅覚などの化学感覚に働きかけて攻撃をやめさせる,と考えられてきたが,この「紫色の液体放出による防御」説に関してもまた,はっきりと支持するような実験結果が得られてこなかった。それが,近年になって紫色の液体を構成する紫色のインクと白色のオパリンという二つの分泌物に含まれる化学防御物質群の解析が進み,その役割と仕組みが徐々に明らかにされてきた。これらの化合物は捕食者の化学感覚に働きかけて防御物質として働くだけでなく,同種個体に対しては警報物質として働く。本稿では最近明らかにされてきたアメフラシの多重の化学防御機構,皮膚に含まれる2次代謝物とインクとオパリンの成分として放出される化合物群の正体とその役割について概説する。

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© 2012 日本比較生理生化学会
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