2026 年 43 巻 2 号 p. 99-106
動物の中には入り組んだ閉鎖空間をすみかとするものがいる。このような環境では匂いを運ぶ風が滞留しやすく,風上定位によって匂い源を探し出すことが困難となる。閉鎖空間に適応した昆虫の代表格がゴキブリで,5cmを超える長い触角をもつことが特徴である。触角全域に分布する嗅感覚細胞は処理する匂いの種類に応じて一次嗅覚中枢(触角葉)の異なる糸球体に投射する。各糸球体内部では,嗅感覚細胞の軸索終末が触角の基部〜末梢の細胞体の位置に応じて組織化されている。この組織化は基部由来の新生嗅感覚細胞の軸索が脱皮毎に同一ルートから糸球体にアプローチし,その外縁を覆う「付加成長」を通じて形成される。発生依存的に作られた層状の糸球体内地図は,糸球体の一部に樹状突起を持つ複数の二次ニューロンによって利用される。触角長軸に沿って形成される興奮性受容野の幅は1cmあまりで,その外側には抑制性受容野が形成される。ゴキブリは長い触角を用いることで匂いの検出効率を上げるだけでなく,視覚情報処理と似たしくみで匂いの分布を把握することで,定位に役立てていることが示唆される。