2012 年 63 巻 2-4 号 p. 105-115
Helicobacter pylori が感染した胃粘膜では,慢性炎症が引き起こされ,萎縮性胃炎 (AG) となり,最終的に胃がんに至る.一方,胃がんの発症に対して,Selenium (Se) は抑制効果がある可能性が指摘されている.そこで,一般住民を対象に,H. pylori 感染および AG と血清Se濃度の関連について調査・検討した.
2005年岩木健康増進プロジェクト・プロジェクト健診を受診した728名 (男性252名,女性476名) を対象とした.測定項目は H. pylori 便中抗原価と血清抗体価,AG判定として血清ペプシノゲン (PG) I と PG II,血清Se濃度とした.
血清Se濃度は,H. pylori 感染の影響は受けず,AG により低下する可能性が示唆された.また,PG I 濃度が低下すると,血清Se濃度も低下する傾向がみられた.これらの結果から,PG I 低下による Se の消化吸収能の障害が胃がん発症過程における Se 低下の機序であることが示唆された.