2018 年 68 巻 2-4 号 p. 188-
大動脈弁狭窄症(AS)では、石灰化で大動脈弁の開閉が制限される病態である。重症の場合は心不全や失神発作を引き起こし、大動脈弁置換術(AVR)の適応になる。日本胸部外科学会学術調査により、AVR 手術件数が年々増加されている。また、弁膜症を合併する弁膜症や深部静脈血栓症などでWFN 長期内服する患者が増えているが、ワルファリン(WFN)長期内服が弁石灰化の増悪因子として報告され、その石灰化誘発機構が不明である。これを明らかにするため、AS 患者から単離したHAVICs を用いて検討した。まず、WFN(1μM)単独では石灰化が亢進しなかったが、高リン酸(3.2mM)の共存により、石灰化の著しい亢進を認めた。ナトリウム-リン酸共輸送体(PiT-1)阻害薬SPF は高リン酸条件でのWFN 誘発石灰化を有意に抑制した。骨形成関連遺伝子の発現調節に関わるpregnane X receptor (PXR)がWFN 誘発石灰化への関与について、PXR アンタゴニストであるケトコナゾール(KE)とPXR 活性の阻害薬であるクメストロール(CO)を用いて調べた結果、いずれもWFN 誘発石灰化を強く抑制した。さらに、骨形成因子BMP2 と骨形成マーカーALP活性について調べた。WFN と高リン酸との共存により、BMP2 の遺伝子発現が著しく亢進すると共にALP 活性も上昇したが、いずれもPXR 阻害剤KE とCO に有意に抑制された。以上の結果は、WFN はPXR-BMP2-ALP 経路を介して大動脈弁石灰化を亢進することを強く示唆していた。