弘前医学
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〈一般演題抄録〉術後 25 年を経て膵頭部孤立性転移を認めた腎細胞癌の 1 例
佐藤 諭岩村 秀輝
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2019 年 69 巻 1-4 号 p. 208-

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抄録

【症例】69 歳、男性。【既往歴】45 歳、左腎摘出術。63 歳、甲状腺濾胞癌で右甲状腺亜全摘術。糖尿病で近医通院。【臨床経過】2016 年 10 月の CT で膵頭部腫瘤を指摘されるも慢性膵炎による変化として経過観察されていた。2018 年 1 月上旬に全身倦怠感が出現したため受診。血糖値が 721mg/dl と著明に上昇していたため入院となった。入院後黄疸と血液検査で胆道系酵素の上昇がみられ、造影 CT では膵頭部に hypervascular な腫瘤を認め、総胆管へ浸潤、閉塞させ、さらに門脈や十二指腸にも広範囲に浸潤していた。上部消化管内視鏡検査では十二指腸乳頭部に易出血性で中心陥凹を伴う平皿様腫瘤を認め、病理組織学検査では Hematoxylin-Eosin 染色で腺管構造不明瞭で細胞質が淡明な腫瘍を認めた。甲状腺濾胞癌も鑑別にあがったが免疫染色では PAX-8 陽性、TTF-1 陰性、サイログロブリン陰性であったことから腎細胞癌が疑われた。左腎摘出術の詳細は明らかにすることはできなかったが腎細胞癌術後の膵転移と診断。分子標的治療薬の投与を検討したが、入院後全身状態が悪化し第 44 病日に永眠された。【考察】転移性膵腫瘍の頻度は少なく膵悪性腫瘍全体の 2%以下とされる。原発巣の約半数は肺癌と胃癌をはじめとした消化器癌で造血器腫瘍、腎細胞癌がそれに続く。腎細胞癌の 20 –30%の症例で腎摘出術後に転移を認めるとされ、転移臓器としては肺、骨、肝、脳が多く、膵臓への転移は 0.25 –3% 未満と少ない。また、85%は術後 3 年以内に転移を認めるとされるが、一部緩 徐な増殖を示す low grade type が存在し、転移出現までの期間が 10 年以上に及ぶ場合もある。造影 CT での早期濃染像が診断に有用だが、同様の所見を呈する膵内分泌腫瘍や漿液性嚢胞腺腫との鑑別を要し、CT ガイド下もしく超音波内視鏡下の腫瘍針生検での組織学検査が有用とされる。膵転移の治療として は外科手術が推奨されているが、分子標的治療薬が選択される場合もある。一 方、本症例で鑑別にあがった甲状腺癌の膵転移は腎細胞癌以上に報告が少なく、また先行報告の大部分は乳頭部癌であった。甲状腺癌膵転移は症例数が極端に 少なく予後を含め不明な点が多い。本症例は膵転移腫瘍を内視鏡的に観察でき、生検にて確定診断が得られた貴重な症例であった。膵腫瘍は組織採取が困難で あり、画像や腫瘍マーカーから臨床的に診断されることが多いが、可能な限り 検体を採取し病理組織学的に診断することが重要と思われた。

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