2019 年 70 巻 1 号 p. 94
【症例】
症例は50歳、女性。20XX年春に上腹部痛、白色便、黄疸の症状を認め精査加療目的に当院消化器内科へ紹介となった。精査の結果、膵頭部癌および多発肝転移の診断を受けた。遠隔転移を有する切除不能膵癌に準じてFOLFIRINOX療法が開始された。計18コース施行した時点で画像上のPRが得られたため、手術の方針となり20XX+1年春に当科紹介となった。局所は切除可能であり、多発肝転移はほぼ消失し肝S7に瘢痕様所見を認めるのみだった。以上より、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術、および肝S7部分切除術を施行した。肝にはS7以外に転移性病変を認めず、肉眼的完全切除を施行し得た。病理所見では原発巣および肝転移巣は、化学療法による線維化および硝子化変化のみを認め、癌細胞の消失を認めた。一方で1つの12bリンパ節組織にのみ、低分化腺癌の転移を認めた。術後1カ月後からS-1を用いた術後補助化学療法を開始したものの、術後3か月で肝S4に新たに肝転移を認めた。現在、2次化学療法を導入し外来で治療継続されている。
【考察】
遠隔転移を有する膵癌に対するFOLFIRINOX療法の生存期間中央値は11.2カ月、無増悪生存期間中央値は5.5カ月、奏効率は37.7%とされており、切除不能膵癌に際するconversion surgeryでは生存期間中央値は39.6カ月と予後の延長を認めたとする報告がある。一方で遠隔転移を有する切除不能膵癌のconversion surgeryの報告は少なく、そのタイミングや意義は明らかではない。したがって、自験例に関して文献的考察を加え報告する。