弘前医学
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弘前医学会抄録
<一般演題抄録>心房細動の原因の可能性としてのChiari-Networkとそれを有する心房細動の心不全の特徴
藤井 裕子長谷川 範幸
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2019 年 70 巻 1 号 p. 95

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抄録

【背景•目的】Chiara-Network は、右房に存在する場合がある網目状構造物で、下大静脈から冠状静脈洞にわたる胎生期遺残である。Hans Chiari らによる剖検例での報告にはじまり、心エコー図検査で認めることもある構造物である。臨床的には、血栓塞栓症、感染性心内膜炎、上室性頻拍症などとの関連が報告されている。また、日常の心エコー図検査において、心房細動 (atrial fibrillation: AF) 例で Chiari-Network を見ることをしばしば経験する。本研究では、心不全を合併することの多いAF 症例において、Chiari-Network の心不全への影響について検討した。
【方法】当院で2018年4月から10月に心エコー図検査が行われた症例を対象とした。僧帽弁流入血流波形からA波のないものを心房細動と判断した。心不全の指標として、右房圧 (right atrial pressure: RAP), 三尖弁逆流 (tricuspid regurgitation: TR), 肺動脈収縮期圧 (pulmonary artery systolic pressure: PASP), 左房圧 (left atrial pressure: LAP), 及び、左房容積 (left atrial volume: LA volume)を、心エコー図検査で計測し算出または評価した。それらの指標を、AF 症例において、Chiari-Network の有無間で比較検討した。
【結果】当院で2018年4月から10月に心エコー図検査が行われた144例中38例が、心エコー図検査中にAFを呈した。Chiari-Network は、AF、発作性 AF、及び、上室性期外収縮連発症例に認められ、全心エコー図検査の11.8% を占め、特に、AF 症例で36.8% と頻度が高かった。Chiari-Network 群と非 Chiara-Network 群との比較において、RAP 及び LA volumeは、両群間でほぼ差は見られなかった (RAP: 6.6 ± 3.5; 6.7 ± 4.4 mmHg)(LA volume: 102.5 ± 28.3; 102.8 ± 46.9 mL)。TR 重症度スコアは、両群とも平均的には中等症であったが (TR スコア: 2.4 ± 1.0; 2.5 ± 1.3)、Chiari-Network 群でやや軽度であった。PASP 及び LAP は、両群とも軽度上昇を呈したが (PASP: 30.1 ± 13.1; 32.2 ± 12.2 mmHg)(LAP: 13.5 ± 2.7; 14.9 ± 5.3 mmHg)、Chiari-Network 群では、やや低い傾向にあった。
【結論】Chiari-Network は、AF 症例で頻度が高く、Chiari-Network と AF の関連性が示唆された。心不全の特徴は、AF 症例全体で、TR 重症度が増し、 RAP、LA volume、PASP 及び LAP の上昇をきたすものの、Chiari-Network を有するAF は、Chiari-Network を有さない AFに比し、TR 重症度、PASP 及び LAP は、やや低い傾向が示された。その原因としては、Chiari-Network が、左房の形態を支え、拡大を抑制している可能性、また、Chiari-Networkの網目が一部の血栓を捉え、血栓塞栓を予防する可能性、が考えられた。

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