弘前医学
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弘前医学会抄録
<一般演題抄録>PIT法を用いた脳梗塞モデルラットに対する 麻痺側肢集中使用による運動機能回復効果の検討
赤平 一樹佐藤 ちひろ三上 美咲加藤 夢梨山田 順子
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2019 年 70 巻 1 号 p. 96

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抄録

  脳卒中後のリハビリテーションは患者のQOLを向上させるため必須であり、中枢神経系の可塑性変化を誘発し、運動機能を回復させると考えられている。臨床現場では、脳卒中片麻痺患者に対する様々な治療方法が展開されているが、治療効果における科学的根拠として脳内における新たな神経回路形成を引き起こす条件および詳細な機序は未だ不明な点が多い。脳卒中患者へのリハビリテーションの中でも、麻痺側上肢集中使用を促すCI療法(Constraint-induced movement therapy)は高い治療エビデンスを有するが、最も効果的な運動種類や質は明らかでなく、回復効果の詳細なメカニズムは未だ明らかではない。
  本研究では、麻痺側肢集中使用と運動介入を併用し機能回復効果を明らかにすることを目的とし、ヒトの上肢・手指の運動麻痺に対応させた脳梗塞モデルラットをPIT(Photochemically Induced Thrombosis) 法により作成し、前肢運動麻痺に対するCI療法の効果を検討した。PIT法は血管内に注入した光感受性色素ローズベンガルに特定波長の光を照射することにより限局した皮質部位に脳梗塞を作成することができる手法である。実験動物は非介入群 、ケージ内の生活上でのみ麻痺側肢を集中使用するCI群、麻痺側肢集中使用に加え、餌へのリーチトレーニングを行ったCI+reach群の3群に分け実験を行った。
  その結果、術後10、14、21日目に非介入群と比較してCI群、CI+reach群において前肢運動機能の評価スケールで有意に機能回復の向上を示した。また、非介入群とCI+reach群の比較では術後10、14日目にリーチ・把握動作を評価するsingle-pellet reaching testでCI+reach群が有意に成功率の改善を示した。本研究の結果より、術後の運動介入が機能回復に有用であり、前肢の粗大運動回復にはCI療法群及びCI療法と手指機能訓練の併用群共に有効であることが示された。このことから、粗大運動の回復には麻痺側集中使用が有効であると考えられる。一方、手指巧緻性の回復においてはCI療法と手指機能訓練の併用群が有意な回復を示した。このことから、餌へリーチし口まで運ぶというような目的ある動作を繰り返し反復する課題指向型訓練 (task-orientated training) が運動機能回復に有効であると考えられる。
  今後、本研究で確立した前肢麻痺モデルを用いて脳回復のメカニズムを明らかにするため、神経再生解析、シナプス、スパイン解析によるネットワークの変化と機能回復の検討などへ発展させることが可能である。

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© 2019 弘前医学編集委員会
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