植生史研究
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溜池遺跡・汐留遺跡・墨田区三遺跡から出土した 木製品の樹種から類推される近世江戸城周辺の木材消費
松葉 礼子
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キーワード: 江戸, 近世, 樹種, 木材消費, 木製品
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1999 年 7 巻 2 号 p. 59-70

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抄録
近世江戸城周辺の木材消費の実態を明らかにするために,東京都にある溜池遺跡,汐留遺跡,横川一丁目遺跡,江東橋二丁目遺跡,錦糸町駅北口遺跡IIから出土した木製品の樹種同定結果を比較検討した。これらの遺跡は,藩邸,社家,旗本屋敷地など,立地も出土遺物も多様であるにもかかわらず,多量の木製品の出土,ヒノキ科の樹種の優占,建築材や下駄に利用されている樹種や製作技法の近似などの共通の特徴が確認された。とくにヒノキ科の樹種の大量出土は,林業史などから指摘されている木材資源枯渇の状況に反している。しかし,ヒノキは中世に多く利用されていたスギの代替材であり,出材・運材技術の向上がそれを下支えしている。当時関東周辺に多く分布していたと考えられるマツ属は,樹脂分の多い材質から曲物等の製品や水を入れる製品には適していないため,建築材などでは多く確認されるが,桶などの製品には利用できなかったと考えられる。遺跡間での樹種構成の近似は,入手できる木材に制限があったのではないかと推察する。比較的材質に制限のない下駄や建築材などの製品でこれらの傾向は顕著であるが,出現する樹種にはあまり変化がないことから,選択可能な木材自体それほど無かったものと考えられる。これらの結果から,近世の江戸城周辺域では入手可能な木材が大きな制限要因になっていたものと考えられる。少なくとも消費段階では材質の選択性は高くないと考えられる。
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© 1999 日本植生史学会

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