HISPANICA / HISPÁNICA
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論文
「偽名」における秘密、あるいは剽窃としての文学をめぐる考察
森川 香織
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2015 年 2015 巻 59 号 p. 85-104

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抄録

1975年に出版されたリカルド・ピグリア(Ricardo Piglia, 1940-)の選集『偽名』(Nombre falso)には「ロベルト・アルルトへのオマージュ」(“ Homenaje a Roberto Arlt ”)と題される中編小説が収められている。2002年の改訂版において、この題名は目次上から消え、「偽名」(“ Nombre falso ”)と改題された物語の副題としてのみ残されることになった。2002年版におけるタイトルの変更理由は明らかではないが、失われた“アルルト”の遺稿をめぐるこの物語に隠された“秘密”が、改訂後のタイトルと深く関わっているのは事実である。本稿では、ピグリア作品における“秘密”の機能を考察するとともに、本作において二重の仕掛けで隠されたそれを読み解くことにより、「偽名」というタイトル、および作品自体の意味にアプローチを試みている。結果として、“ロベルト・アルルト”の名前の裏に潜む複数の作家たちの影が浮き彫りになると同時に、本作が他者のテクストの書き換え、すなわち剽窃の伝統をもつアルゼンチン文学への省察から生まれた作品であることが明らかになるであろう。

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© 2015 日本イスパニヤ学会
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