現代社会学研究
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中国宗族組織と民間信仰
祖先崇拝と神祇祭祀の相補的機能を中心に
翁 康健
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2018 年 31 巻 p. 1-18

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抄録

中国の宗族組織には分散と統合を繰り返すという特徴がある。「房」という 構造に基づいて,宗族組織は分散し,また祖先崇拝により統合される。しか し,祖先崇拝は宗族を統合する以外に,宗族を拡張し,宗族の社会的地位を強 める機能も有しており,その過程では宗族内部における経済的・政治的な地位 の差も同時に強調される。そのため,それらの権力や勢力を持っていない族人 はしばしば排除される。 それでは,排除された族人はいかに宗族組織との関係を維持するのか,本稿 は福建省陳厝村を事例にして,調査・考察を行った。その結果,祖先崇拝にお ける排除問題は,神祇祭祀により緩和されることが示唆された。陳厝村の神祇 祭祀においては宗族全体の神「聞太師」と,房レベルの神が共に村落を巡る 「遊神賽会」という祭祀活動により,宗族全員が統合される。このように,宗 族社会においては,「房」という構造に基づいて,祖先崇拝と神祇祭祀は宗族 組織を統合する相補的機能を持つと考察された。 現代中国社会において,海外華僑華人との社会関係資本の拡張のため,祖先 崇拝と神祇祭祀は重要な二つの経路となっている。従って,改めて祖先崇拝と 神祇祭祀の社会的機能を理解する必要ができている。その際に,こういった二 つの祭祀儀礼の相互的機能を理解することで,民間信仰の社会的位置を捉える 新しい視座を提供することができると考えられる。

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© 2018 北海道社会学会
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