現代社会学研究
Online ISSN : 2186-6163
Print ISSN : 0915-1214
ISSN-L : 0915-1214
調査報告 コロナ禍の子育て問題 ―子育て支援NPO の「子ども宅食」利用者アンケートから―
工藤 遥
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2022 年 35 巻 p. 61-84

詳細
抄録

本稿では,コロナ禍初期に北海道札幌市で「子ども宅食」活動を展開した子育て支援NPO が実施したアンケート調査のデータから,一斉休校や登園・外出自粛要請が子育て家庭に与えた影響について考察した。休校・自粛要請により,家庭内で母子だけで過ごす時間が長時間化する中,幼い子どもを持つ母親たちは,子どもの食事作りや家庭学習,生活習慣や健康面への配慮など,普段よりも多くのケアや教育,家事負担を抱え,就業面や経済的な面でも困難に直面していた。本調査では,母親回答者の9割以上が休校・自粛の影響で「困った」と回答し,特に就園・就学期の子どもがいる親でその割合が高かった。また,ストレス程度が高い回答者は普段よりも休校中ほど多く,特に普段からストレスが強い層ほど休校中のストレスや困り感も強いことが確認された。保育・子育て支援の利用が一般化した社会で,「子育ての社会化」機関がその機能を一斉に停止・縮小したことの影響は大きく,また,コロナ禍では家族ケアや女性の就労に関する平時からの問題もより深刻な形で顕在化した。こうした中で本調査では,食事提供型の支援が家事負担や食費の軽減にとどまらず,孤立感の緩和や精神的支援としても有用であることが示唆された。子育て問題の予防と解消のためには,緊急時も含めて「子育ての社会化」体制を機能させることとともに,公的支援の「切れ目」を埋める民間の活動に対する支援の拡充も重要である。

著者関連情報
© 2022 北海道社会学会
前の記事
feedback
Top