現代社会学研究
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寄稿論文 ケアを語るという政治
―障害者の母親業を担うある女性のライフヒストリーから
元橋 利恵
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ジャーナル オープンアクセス

2024 年 37 巻 p. 25-48

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抄録
本稿は,インフォーマルなケアを担うがゆえに「政治的主体」であることから疎外される親(母親)の困難に焦点をあて,ケアする人の声に根差した「政治的なもの」をいかに形成していけるのかを問題意識としている。本稿ではケア・フェミニズムの議論に依拠しつつ,「語る」という実践(ナラティヴ)の「政治的ケア」の役割に着目し,障害をもつ子の母親業を担うある女性(A子さん)のライフストーリーを読み解いていく。  A子さんのライフストーリーから,「障害児の母親」として期待される支配的なナラティブに対する,対抗的な語りの実践を読み解くことできた。A子さんの母親業のなかで経験した葛藤の語りは,〈ケアするわたし〉の地点から,ケア対象者であるBさんのニーズを割り切ることを拒否し,「障害者のお母さん」のマスター・ナラティヴを超え出ていくという抵抗的な意味をもっている。  考察では以下を検討した。第一に,母親業を担う人は,他の専門家や支援者と対等の「ケアラー」としてアイデンティティをもつことそれ自体に困難があり,その困難が周囲に対して声をあげることを難しくしている。第二に,〈ケアするわたし〉として語るとは,役割や機能としてではなく,かけがえのない個別の存在として扱われることで可能となる。ケアの倫理に根差した「政治的なもの」を構築していくためにも,ケアする人自身の困難に寄り添う社会的支援が必要である。
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© 2024 北海道社会学会
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