現代社会学研究
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「宗教被害」と人権・自己決定をめぐる問題
統一教会関連の裁判を中心に
櫻井 義秀
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2002 年 15 巻 p. 63-81

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抄録

本稿では,人権・自己決定権という世俗的理念がどのようにして宗教制度の領域に介入するようになっていったのか,その時代背景や社会的要因を現代の『カルト』問題や,『宗教被害』をめぐる裁判を通して記述していきたい。現代の『カルト』問題は,特定宗教や宗教の暴力的側面に関わる問題に留まらない。
教団の特殊な勧誘・教化行為や宗教活動一般を社会がどのように許容するのかという問題としても出現している。
カルトによるマインド・コントロールというクレイムは,信者の宗教的自己決定権が侵害されているという評価的な理解であり,脱会カウンセリングにおいて,信者を教団から家族へ引き戻すための実践理論でもある。布教が『その人のために』というパターナリズムで行われているのと同様に,カルト批判もパターナリズム的立場をとる。教団・信者側,反カルト側・元信者側がそれぞれ,宗教的自己決定権を主張し,相手をその侵害者として批判するのである。
統一教会元信者による『青春を返せ』訴訟は,自己決定権の回復を求めた訴訟と位置付けられる。判決では,統一教会による正体を隠すやり方,伝道されたものを欺罔・威迫する方法が違法とされ,原告勝訴となった。この判決は宗教問題に法的介入が可能であることを示した点において画期的であったし,現代宗教の社会的位置付けを司法が宣言したという意味でも,今後,宗教界・宗教研究に大きな影響を与えることになろう。

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