北海道立北方民族博物館研究紀要
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サハ共和国アルダン郡におけるエベンキのトナカイ牧畜
夏季拠点における事例研究
中田 篤
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2018 年 27 巻 p. 15-26

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抄録

トナカイ牧畜は、おもに北方ユーラシア地域先住民の主要な生業である。これまでその起源や類型が研究対象とされてきたが、日常的な放牧はあまり注目されてこなかった。本稿では、ロシア連邦サハ共和国におけるエベンキのトナカイ牧畜、特に夏季の放牧方法と家畜利用について報告した。  調査はアルダン郡西部のウゴヤン村に設立された氏族共同体「オーロラ」(仮名)を対象に実施された。「オーロラ」の一部メンバーは、夏季(4~10月)にはアムガ川沿いの拠点に滞在していた。「オーロラ」所有のトナカイは約100頭だが、頭数を増やすために現在は屠畜しておらず、狩猟など他の生業活動を収入源としていた。  夏季、トナカイは常時放牧状態で管理され、毎日の駆り集めはおこなわれなかった。 この時期にはトナカイの害虫が発生するため、家畜トナカイは自発的に拠点付近に戻るとされていたが、夏の拠点は風が通る川沿いに位置し、燻煙小屋が備えられるなど、害虫を避けたトナカイが集まりやすい条件が整えられていた。さらに拠点では配合飼料や塩でトナカイを引き寄せており、実際に家畜群が自発的に拠点に戻った事例も確認された。  調査中に家畜トナカイが騎乗や輸送に使われることはなく、またかつては搾乳対象とされてきたが、現在搾乳はおこなわれていないとのことだった。一方、繁殖期が近づいていたため、野生オスが家畜メスに接近することがあり、そうした個体が狩猟されていた。つまり、家畜トナカイは狩猟のおとりとして利用されていると考えられる。

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