The Horticulture Journal
Online ISSN : 2189-0110
Print ISSN : 2189-0102
ISSN-L : 2189-0102
依頼総説
サクラ属における S-RNase 依存性配偶体型自家不和合性認識機構の特異性
松本 大生田尾 龍太郎
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2016 年 85 巻 4 号 p. 289-305

詳細
抄録

核果類やアーモンドなど多くの果樹類が属するバラ科サクラ属植物は S-RNase 依存性配偶体型自家不和合性を示す.このタイプの自家不和合性は,ナス科やオオバコ科,そしてバラ科リンゴ亜連にもみられる.S-RNase 依存性配偶体型自家不和合性の認識反応における雌ずい側の反応特異性は S-RNase 遺伝子によって,また花粉側の反応特異性は F-box タンパク質遺伝子によって決定されている.バラ科サクラ属の花粉 S 遺伝子は S haplotype-specific F-box protein geneSFB)とよばれ,S 遺伝子座に単独で存在する.一方,ナス科とバラ科リンゴ亜連では,複数の F-box 遺伝子が S 遺伝子座に花粉 S 遺伝子として存在し,それぞれ S-locus F-boxSLF)ならびに S-locus F-box brothersSFBB)とよばれている.サクラ属植物やバラ科リンゴ亜連植物,そしてナス科植物やオオバコ科植物の S-RNase 依存性配偶体型自家不和合性には,共通してユビキチンプロテアソーム系によるタンパク質分解系が関与していると考えられている.しかしながら,近年,花粉 S 遺伝子の機能損失変異体やヘテロ二倍体花粉を用いた研究から,サクラ属における不和合性認識機構の特異性が明確になってきた.サクラ属の SFB は自己認識に機能し,S-RNase の細胞毒性の発揮に関与する一方で,バラ科リンゴ亜連植物,ナス科植物,そしてオオバコ科植物の花粉 F-box タンパク質は非自己認識において機能し,S-RNase の解毒に関与することが明らかになってきたのである.本総説では,サクラ属植物の自家不和合性認識反応の特異性について,最近の知見を引用して解説する.

著者関連情報
© 2016 The Japanese Society for Horticultural Science (JSHS), All rights reserved.
次の記事
feedback
Top