保全生態学研究
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外来種介在により陸上脊椎動物と蠕虫との関係はどうなったのか? : 外来種問題を扱うための宿主-寄生体関係の類型化
浅川 満彦
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2005 年 10 巻 2 号 p. 173-183

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抄録

外来性の寄生嬬虫が,ヒトや家畜,野生動物に感染した場合,時に高い病原性を示すことがある.そこで,これまで国内で行われた外来動物の嬬虫調査の概要を紹介し,次に寄生虫学における外来種問題を扱うための宿主-寄生体関係の類型化を行い,それぞれの類型ごとにヒトや動物,自然生態系に与える可能性のある悪影響などについて考察した.宿主-寄生体関係を,外来宿主-外来嬬虫,在来宿主-外来嬬虫,外来宿主-在来嬬虫,在来宿主-在来嬬虫の組合せに類型化して概観した.外来の宿主-寄生体関係には,アカミミガメTrachemys scriptaとFalcaustra sp.,インドクジャクPavo cristatusとPseudaspidodera pavonis,タイワンリスCallosciurus erythraeusとBrevistriata callosciuri,ヌートリアMyocastor coypusとStrongyloides myopotami,アライグマProcyon lotorとStrongyloides procyonisなどが該当し,寄生嬬虫はいずれも線虫であった.原産地における宿主-寄生体関係をそのまま踏襲したものであり,自然生態系への悪影響は少ないと考えられるが,モニタリング調査は必要と考えられる.外来宿主と在来嬬虫の例としては,クマネズミRattus rattusと線虫Heligmosomoides kurilensis(アカネズミApodemus speciosusに由来),アライグマとタヌキ蛔虫(線虫)Toxocara tanuki(タヌキNyctereutes procyonoidesに由来),アライグマとネコ条虫Taenia taeniaeformis(エゾヤチネズミClethrionomys rufocanusに由来)などがあり,こういった事例では嬬虫は在来であっても新たな生態的地位を占める宿主に移行したため,本来の生息環境の外に分散して新たな疾病の原因になる可能性を指摘した.在来宿主と外来嬬虫の関係では,ニホンジカCervus nipponと線虫Nematodirus helvetianus(ウシBos taurusに由来),ヒメネズミApodemus argenteusと線虫Heligmosomoides polygyrus(ハツカネズミMus musculusに由来)などが観察された.動物園で見られたヨーロッパヤマネMuscardinus avellanariusでのH. polygyrus濃厚寄生による致死例のような事例は,野外では未確認であるが,生物多様性を減ずる因子となる可能性は十分指摘できよう.在来宿主と在来嬬虫の関係は,ニホンジカと線虫Spiculopteragia houdemeri,アカネズミ属と線虫Heligmosomoides属,タヌキとタヌキ蛔虫など,日本の自然生態系に属し,生物進化の過程で生じたとされる組み合わせが該当した.寄生虫の「外来種問題」では,外来嬬虫の存在に関心が集中しがちであるが,宿主-寄生体関係の類型に分けて論議することが望ましいことを強調した.

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© 2005 一般社団法人 日本生態学会

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