保全生態学研究
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ニホンジカ(Cervus nippon)の採食下にある旧薪炭林の樹木群集の構造について
藤木 大介鈴木 牧後藤 成子横山 真弓坂田 宏志
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2006 年 11 巻 1 号 p. 21-34

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抄録
ニホンジカの採食下にある旧薪炭林を対象に、その森林構造や林分構成種の幹集団構造の現況を把握し、今後の林分の推移について考察するため、兵庫県内のシカの生息密度で異なる4地域において植生構造の調査を行った。シカの採食下にある林分とシカの採食下にない林分で森林構造を比較したところ、前者の林分では、後者に比べて、小さな樹高階の幹数が顕著に少なかった。林分構成種を樹高階別本数分布のパターンから2タイプに区分すると、大きな樹高階に幹数のモードをもち、一山型もしくは一様型の樹高分布パターンを示すI型樹種と小さな樹高階に幹数のモードがあるII型樹種に区分された。シカの採食下にある林分において、I型樹種にシカの採食の影響は認められなかったが、II型樹種では樹高階別本数分布のパターンが本来のL字型から一山型へ変化していることが認められた。次に、林分構成種を二次遷移後における幹集団の存続性に応じて、幹集団衰退型と幹集団維持型に区分した。調査林分に出現した幹集団維持型の高木種の大半はII型樹種であり、シカの採食下にある林分において稚幼樹がほとんど確認されなかった。このことは、このタイプの樹種の林分への侵入と林分内における更新がシカの採食によって阻害されていることを示唆していた。伐採されなくなった二次林では、遷移後期種による林分の更新が進むことを考えると、遷移後期種と思われるII型で幹集団維持型の高木種・亜高木種の侵入・定着がシカの採食によって阻害されることは、高木層・亜高木層の幹集団の更新が進まないことを意味する。したがって、シカの採食圧が高い状況が長期的に続くと旧薪炭林における高木層・亜高木層は徐々に衰退する恐れがある。一方、I型で幹集団維持型の樹種を主体とした林分の更新が生じる可能性も考えられる。その場合は通常の二次遷移と異なる林分へ偏向遷移する可能性がある。
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© 2006 一般社団法人 日本生態学会

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