保全生態学研究
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Print ISSN : 1342-4327
北海道北部へのシマフクロウの人為的移動
早矢仕 有子
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2009 年 14 巻 2 号 p. 249-261

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抄録

シマフクロウKetupa blakistoniの分布記録が44年以上途絶えていた北海道北部において、2006年9月、単独個体の生息が確認された。その個体は1987年に96km離れた北海道東部で生まれたメスで、発見地が他個体の生息地から隔離されていたため、10年間飼育下にあったオス個体を移動させつがい形成を目指すことが決定された。オスは、メスの生息地に設置された馴化用の野外ケージで2週間飼育された後、2007年10月25日に放鳥された。放鳥翌々日の10月27日から放鳥120日後の2008年2月22日までの期間、集中的な追跡調査を実施した。雌雄ともに、魚類を放飼した人為給餌池を頻繁に利用した。昼夜ともにオスの居場所が不明な日時はなかった。オスは放鳥地から分散することも短期間の遠出をすることもなく定着した。オスのねぐらは放鳥地周辺に集中しており、38日中36日(94.7%)でねぐらから放鳥地点までの距離は400m以下であった。夕刻に活動を開始してから採餌を開始するまでの間に雌雄ともに高頻度で送電柱・配電柱等の人工物をとまり木として利用していたが、とくにオスにおいて、人工物の利用頻度が高かった。また、雌雄間の鳴き交わしは放鳥翌々日から継続的に確認されたが、その頻度は繁殖歴のある野生つがいに比べると著しく低かった。放鳥オスは2008年3月に感電事故に遭遇しながら生存した。しかし、2008年6月26日、放鳥から246日目に放鳥地に近接する養魚池で溺死し、北海道北部においてシマフクロウの繁殖地を復元するという当初の目標を達成することはできなかった。今後も、他の生息地から隔離された単独個体の生息地には異性個体を人為的に移動させつがい形成を目指すべきであるが、その際には、人為給餌・巣箱設置などの保護策に加え、単独個体および生息地を対象にした事前調査と危険要因の除去、放鳥後の追跡調査が必須である。

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© 2009 一般社団法人 日本生態学会

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