保全生態学研究
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スウェーデンにおける生物多様性の保全に資する森林管理の試み(保全情報)
森 章
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ジャーナル オープンアクセス

2009 年 14 巻 2 号 p. 283-291

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抄録

森林は陸域の生物相の約65%を支えており、森林における生物多様性の保全は、多くの分類群の保全につながる。しかし、人為の影響を欠いた森林はごく僅かで、多くの森林が人間の生活活動の場である。そのような森林においても、生態系の人為改悪を防ぎ、生物多様性の保全という機能を持たせることが、これからの持続可能な森林管理における主要課題である。本研究では、「自然生態系、生態プロセス、生物多様性の保全を主目的にしていない景観中のエリア」と定義される"マトリックス"において、如何に生物多様性に配慮するか、配慮できるか、その重要性を論じる。そこで、日本と同様に森林面積が高く、保護区率の低いスウェーデンでのマトリックスマネジメントの事例に着目した。スウェーデンでは、歴史的に長い間、人間活動が行われ、土地所有形態も零細かつ複雑になっている。国や地方自治体が大規模な自然保護区や国有林を一元的に所有・管理できる状況ではなく、国有林面積は僅か7%ほどで、民有林が国土の大半を占めている。しかし、スウェーデンでは、各土地所有者が生産性だけに焦点を当てた森林施業を行うわけではなく、生物多様性に配慮した新しい森林施業・管理を行っている。国立公園や自然保護区といった法的な保護対象となる森林の保全だけでなく、希少種の生育する潜在性の高い森林を数多くの私有地に指定し、伐採せずに保護している。また、伐採活動を行う施業林においても、伐採時に全ての樹木を伐採、搬出するのではなく、動植物相のための住み場所としての樹木や枯死木を残しておくといった、生態系の機能や生物多様性に対する配慮がなされている。つまり、スウェーデンでは、マトリックスの中に存在する、経済活動の対象となる森林において、如何にして生物多様性に配慮しながら管理、保全するのかを重要視している。このようなスウェーデンで実施されている新しい森林管理は、人為影響を受け続けた日本の森林生態系の保全、復元、そして管理に対しても、非常に重要な示唆を含んでいると考えられる。

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© 2009 一般社団法人 日本生態学会

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