保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
原著
管理放棄後樹林化したススキ型草地における埋土種子による草原生植物の回復可能性
小柳 知代楠本 良延山本 勝利大久保 悟北川 淑子武内 和彦
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2011 年 16 巻 1 号 p. 85-97

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抄録

本研究は、管理放棄により樹林化したかつての半自然草地に毒いて、草原生植物個体群の回復をはかり、種多様性の高い草地群落を再生していく上での埋土種子の役割を評価することを目的とした。茨城県南部の筑波稲敷台地に調査地を設置し、ススキ型半自然草地における埋土種子集団の構造を明らかにするため、土壌を表層と下層に分けて採取し発芽試験を行った。また、以前ススキ草地であった管理放棄林において刈り取り再生実験を行うことで、種ごとの個体群回復可能性と種子の永続性との関係を検証した。埋土種子発芽試験の結果、地上植生で記録された草原生植物種の約半数が埋土種子から出現せず、土壌中の埋土種子密度が低いことが明らかになった。その一方で、草原生植物の中にも長期的なシードバンクを形成する可能性が高い種(アキノキリンソウ、ミツバツチグリ、タカトウダイ等)が存在することが明らかになった。刈り取り再生実験の結果、刈り取り一年後に地上植生は大きく変化し、刈り取り前には存在しなかった種が11種出現した。刈り取り後に増加した種の個体群は、長期的なシードバンクからの回復(ミツバツチグリ等)、残存個体からの種子供給による回復(ヒヨドリバナ、ノハラアザミ等)、地中に残存していた地下茎や根からの回復(ワレモコウ、シラヤマギク等)によるものと推察された。本研究より、管理放棄林における草原生植物の個体群回復の様式は種によって異なり、長期的なシードバンクの存在が個体群の回復に重要な役割を担う種が存在することが明らかになった。その一方で、長期的なシードバンクを形成せず埋土種子からの回復が見込めない種も存在したことから、これらの種については、地上植生や地下部における生存個体の有無が個体群の回復を左右する可能性が高いと考えられた。

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© 2011 一般社団法人 日本生態学会

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