保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
総説
農業水路における魚類の保全生態学的研究:現状と課題
中野 光議
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2017 年 22 巻 1 号 p. 135-149

詳細
抄録

農業水路には多種の魚類が出現することが知られ、水路は魚類の生息場所の一つとして認識されている。全国的な淡水魚類の減少、および農村地域の自然環境の保全に対する関心の高まりを背景に、魚類が存続可能な水路環境を保全することが課題となっている。本稿は、国内の水路における魚類の生態に関する既存研究を保全生態学的観点から整理し、魚類の保全に向けて今後取り組むべき研究課題を抽出することを目的とした。魚類の生息・分布と水路の物理的環境との関係については、成長や産卵、越冬等の様々な観点から研究が行われ、各種の魚類が生活史段階ごとに必要な環境条件が明らかにされつつある。また、化学的環境や水温等の環境要因が魚類の生息・分布に与える影響についても、知見が積み重ねられつつある。水路ネットワークを通した魚類の移動についても多くの研究例が見られ、水路ネットワークの機能や課題が解明されつつある。一方、生物間相互作用に着目した研究例は非常に少ない。水路における相互作用の事例を蓄積しつつ、どのような環境条件下で各相互作用タイプが強く発現するのかを特定する必要がある。また、空間的要因を考慮した分布予測モデルの作成や野外操作実験の導入を行い、既存の知見を再検討することが必要と考えられた。さらに、保全活動に順応的管理を導入することが望まれる。

著者関連情報
© 2016 一般社団法人 日本生態学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
前の記事 次の記事
feedback
Top