2017 年 22 巻 1 号 p. 219-228
国指定特別天然記念物であるライチョウLagopus muta japonicaの遺伝的多様性を保全するために、非侵襲的なDNA試料採取方法の確立と、その方法を用いた遺伝的多様性の評価を行った。富山県の立山周辺において、ライチョウの糞を採取し、ミトコンドリアDNA調節領域についてハプロタイプの決定を試みた。その結果、排泄直後の腸糞を用いた場合、約66%の確率でハプロタイプの決定に成功した。しかし、盲腸糞や古い腸糞においては、成功率が低下した。そして採取した102検体のうち50検体から、3種類のハプロタイプを決定した。このうち1つは、新規に発見されたハプロタイプであった。ライチョウ立山集団の遺伝的多様性は、他の山岳集団のそれと同等か、高い傾向にあることが示唆された。このことは、立山集団における生息個体数の多さを反映していると考えられる。ミスマッチ分析の結果、ライチョウ立山集団は、近い過去に集団の急速な拡大を経験していることが示唆された。この結果から、約9000-6000年前の気候温暖化によるボトルネックを受けた後に、集団が回復したことが推察される。