保全生態学研究
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Print ISSN : 1342-4327
原著
オペレーティングモデルを用いた豊平川のサケ放流数を決める管理方式の検討 ―野生魚保全と個体数維持の両立を目指して―
森田 健太郎有賀 望
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2017 年 22 巻 2 号 p. 275-287

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抄録

札幌市を流れる豊平川では、毎年約20万尾のサケの稚魚が放流されている。これは、1978年に始まった「カムバックサーモン運動」を期に、サケを豊平川に呼び戻そうという活動の一環として行われている。一方、自然産卵するサケも多く見られ、標識放流調査では、豊平川に遡上するサケの半数以上が自然産卵に由来する野生魚であることが判明した。近年、人工ふ化放流が生物多様性に負の影響を及ぼすことが懸念されるようになり、札幌市が策定した生物多様性さっぽろビジョンにおいても「豊平川でも将来的には自然産卵によってサケの回帰が維持されることが理想」とされた。しかし、現在の放流を止めた場合、自然産卵によってサケの回帰が維持されるかどうかは分からない。そこで、放流数を削減した場合の応答を見ながら、サケを減らさずに放流魚割合を減らす管理方式を検討した。豊平川のサケの個体数変動を再現したオペレーティングモデルを作成して、フィードバック管理(遡上数が目標値を達成すれば放流数を減らす)を行った場合の有効性をシミュレーションにより検討した。作成したモデルは、リッカ―型の密度依存的な死亡を仮定した年齢構成モデルで、環境確率性と人口学的確率性を組み入れた。その結果、放流中止にしても絶滅はせず、目標となる遡上数が達成されることが予測された。しかし、オペレーティングモデルに用いたパラメータの推定精度は低く、不確実性は非常に高かった。また、地球温暖化等の環境変化によってもパラメータの値が変化する可能性も考えられた。そこで、初期生存率または海洋生存率が現在推定されている値よりも50%低かった場合も想定しシミュレーションを行った結果、放流中止とした場合は絶滅リスクが高いが、フィードバック管理を行った場合は目標が概ね達成された。この結果に基づき、2016年春から放流数が8万5千尾に削減され(例年の43%)、フィードバック管理を実践することが決まった。今後、遡上数のモニタリング調査を継続し、豊平川にサケを遡上させるために必要な放流のあり方が明らかになっていくことが期待される。

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