野生動物の個体数の増減要因を明らかにすることは、効果的な野生動物管理を行うために生態学研究において古くから主要な興味のひとつであった。近年、増減要因を調べる手法として状態空間モデルの適用が増加している。しかしながら、明らかに十分といえる時系列データを得ることは現実的に難しい場合も多い。特に、人的資源や予算が限られる野生動物管理においてそのような状況は一般的である。本稿では、限られたデータを利用する際に生じる「モデルの不確実性」の問題を考慮するため、状態空間モデルの枠組みにベイジアンモデル平均を組み込んだOsada et al.(2015)の研究内容を解説する。解説では、千葉県房総半島のニホンイノシシの実例を通じて、ベイジアンモデル平均の2 つの利点を明らかにする。第一に、ベイジアンモデル平均は個体群動態に影響する要因の重要性の評価を容易にする。第二に、ベイジアンモデル平均はデータが限られた状況下においてもモデルの予測性を改善する。現在、状態空間モデルにおいてベイジアンモデル平均はほとんど用いられていないが、限られたデータのもとで効果的な野生動物管理を行うためには有用な手法と考えられる。