保全生態学研究
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総説
都市の生物多様性研究は何を目的や対象としてきたか?: 国内研究の動向分析
土屋 一彬斎藤 昌幸
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2018 年 23 巻 2 号 p. 265-278

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抄録

都市における生物多様性の研究は都市における生物と環境の関係の理解を目指す分野であるが、その研究が基礎あるいは応用分野の生態学として目指す目的は、必ずしも明確ではない。また、都市は都心から郊外にかけての多様な生息地を含むが、研究対象に偏りがある場合に、それを他の都市域に適用することは問題となりうる。そこで本研究では、日本の都市の生物多様性研究が、何を目的として、どこの、どのような生物多様性を対象に研究してきたのかについての文献レビューから、今後の都市生態学のあり方と課題について考察することを目的とした。和文と英文双方を含む173本を対象とした分析の結果、国内の都市の生物多様性研究の論文は2000年代以降に増加傾向にあり、和文誌では24の雑誌に渡る幅広い分野に掲載されていた。対象論文の研究目的について整理した結果、生物多様性自体の固有価値に着目する論文が半数以上を占めたが、研究対象生物の意義が明確になっている論文は一部のみであった。生態系サービスなどの有用価値に着目した論文においても、対象生物と生態系サービスの関係が検証されているものはわずかであった。対象論文の研究対象について検討した結果、市区町村より狭い空間スケールを対象としたものや、三大都市圏の特に首都圏や近畿圏を対象地とするものが多かった。首都圏の中では、都心から30 kmから40 kmほど離れた郊外の台地や丘陵地を対象とする論文が多かった。生息地の区分別では樹林地が最も多く、対象生物では植物、昆虫、鳥類に対象が偏っていた。これらの結果から、今後の都市の生物多様性の研究展開の方向性として、基礎的な生態学理論への貢献も含めた都市の生物多様性の固有価値の捉え方について明確にしていくとともに、これまで十分に注目されてこなかった文化的サービスなどの有用価値との関連性の解明を、研究の少なかった沖積低地や都心部や地方都市部も対象に、樹林地以外の多様な生物群も含めて展開していくことが重要であると考えられた。

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© 2018 一般社団法人 日本生態学会
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