保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
調査報告
自生地が消失した岐阜県高山市におけるサクラソウ残存個体の由来推定
吉田 康子中澤 宏介大澤 良
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電子付録

2019 年 24 巻 2 号 論文ID: 1921

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抄録

サクラソウは岐阜県のレッドリストの絶滅危惧 I類に指定されており、高山市清見町にもかつてサクラソウの自生地(清見集団)が存在した。現在、清見町内の民家で栽培されているサクラソウの一部が清見集団由来であると言われている。本研究では、町内の民家で栽培されているサクラソウの所有者からの聞き取り調査や SSRマーカーの遺伝子型に基づくジェネット識別、 STRUCTURE解析およびアサインメントテストを行い、自生地が消失した清見集団由来の個体の探索を試みた。 2012年と 2013年に清見町内の民家 14ヶ所および野外 2ヶ所から採取した 62サンプルから、 SSRマーカー 8座の遺伝子型によって 16のジェネットが見出された。聞き取り調査によって、 4ジェネット(g2、g3、g4、g6)が清見集団由来である可能性が高く、遺伝的に近縁関係であることも明らかになった。全国 32集団と清見町内の 16ジェネットを 1集団として STRUCTURE解析を行った結果、清見集団由来と考えられる 4ジェネットは、それぞれ異なる遺伝組成のパターンを示した。さらに 16ジェネットの由来推定を行うため、 32集団に対してアサインメントテストを行った。本来であれば割り振り先の集団に清見集団を加え、そこに割り振られたジェネットを清見集団由来とすべきであるが、清見集団の遺伝情報が不明であるため、本研究では高山市内に現存する野生集団(高山集団)と清見集団が遺伝的に近縁であると想定し、アサインメントテストで高山集団に割り振られたジェネットを清見集団由来の可能性があると考えた。その結果、高山集団を含む 32集団いずれかの集団で生じる確率が 0%より有意に高くなったのは 4ジェネット( g3、g4、g12、g16)で、そのうち高山集団に割り振られたのは g3だけであった。しかしその確率が非常に低く、清見集団由来のジェネットであると判断できなかった。本研究では、町内で見出された 16ジェネットのうち聞き取り調査によって 4ジェネットが清見集団由来の可能性があることが判明したが、遺伝子型情報に基づく解析ではこれらが清見集団由来であるとの確実な裏づけは得られなかった。そして、サクラソウの自生地が消失、またその周辺の野生集団が著しく減少した状況下では、個体の由来推定の精度が大きく低下することも示された。

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© 2019 一般社団法人 日本生態学会

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