保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327
調査報告
北限域に移植されたマングローブ林における底生動物の食物網構造とマングローブ植物の役割
川瀬 誉博白澤 大樹大西 雄二山中 寿朗山本 智子
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2020 年 25 巻 2 号 論文ID: 1905

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抄録

マングローブ植物は熱帯・亜熱帯の河口汽水域に生育する耐塩性の種子植物であり、鳥類や昆虫類、魚類や底生動物など、陸上と海洋双方の生物とともにマングローブ林を形成している。マングローブ植物はこの生態系において、生息場所提供者と生産者という主要な役割を果たしているが、底生動物もまた、食物連鎖を通して生態系を支えている。人為的あるいは自然分布によって温帯域で見られるマングローブ林では、熱帯・亜熱帯とは底生動物相が異なっていることから、マングローブ植物や底生動物の機能が異なっている可能性がある。そこで本研究では、 17世紀に移植され、分布のほぼ北限に位置する鹿児島市の喜入マングローブ林において、底生動物の食物網構造について安定同位体比を用いて明らかにするとともに、天然分布である奄美大島の住用マングローブ林と比較を行った。前者は 2016年 1月に寒波の影響によって一斉落葉しており、林床上の環境が激変したと想定されるため、落葉前後の林内環境と食物網構造の比較も行った。餌資源となる有機物の候補として、マングローブの落葉、海藻、底質を採集した。消費者は住用と比較できるように、腹足類や甲殻類などを採集し、炭素・窒素・硫黄の安定同位体比( δ13C・δ15N・ δ34S値)を測定した。消費者の安定同位体比から、住用マングローブ林では落葉由来の有機物を利用しているのに対し、喜入では海藻などといった海由来の有機物が底生低次食物網を支えていると考えられた。寒波による一斉落葉の影響として、林内の光量子量の増加と、ハクセンシオマネキの林内への分布拡大が認められた。一方、林内の食物網構造に変化は認められなかった。以上の結果から、喜入マングローブ林では、マングローブ植物は生息場所提供者ではあるが底生食物網の生産者としての寄与は小さいと考えられた。

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