保全生態学研究
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実践報告
丹沢山地と道志山地における絶滅危惧種ヤシャイノデ(Polystichum neolobatum Nakai)の野生個体群と植え戻し個体のモニタリング
田村 淳赤谷 美穂
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2022 年 27 巻 2 号 p. 297-

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抄録

神奈川県絶滅危惧Ⅰ A類のヤシャイノデについて、丹沢山地の生育地で個体数と葉サイズ、生育環境を追跡調査するとともに、胞子培養から育苗して現地に植え戻した個体の生育状況を調査した。また、丹沢山地に隣接する山梨県道志山地においても個体数と葉サイズ、生育環境を調べた。丹沢山地のヤシャイノデは 2004年に 21個体あったが、経年的に減少して 2020年には 5個体のみとなり、いずれもソーラスの無い未成熟個体であった。 1個体あたりの葉数は 6枚以下で葉サイズが 400 mm未満のものがほとんどであり、シカの採食によるものと考えられる先端の切れた葉を持つものが多かった。生育環境は傾斜 50°以上の「岩壁」や「風化した岩壁」である場合が多く、 2006年に「斜面」に生育した 3個体は 2020年には無くなった。現地に植え戻した個体は当初 3個体であったが、 5年後に 2個体となり、いずれも葉サイズは 300 mm未満の未成熟個体であった。道志山地のヤシャイノデは 16個体あり、うち 12個体はソーラスのある成熟個体であった。また 8個体にはシカの採食によるものと考えられる先端部の切れた葉があった。 1個体あたりの葉数が 5枚以上、葉サイズが 400 mmを超えるすべての個体は成熟個体であった。葉サイズは丹沢のものよりも統計的に有意に大きかった。生育環境は、丹沢山地と同様に傾斜 50°以上の「岩壁」や「風化した岩壁」である場合が 60%を占めた。以上のことから、丹沢山地のヤシャイノデは 5個体しかなく、成熟個体も無いことから、いつ絶滅してもおかしくない危機的な状況といえた。植え戻した個体は 5年が経過してもソーラスを付けるサイズに至っていないことから、植え戻した場所はヤシャイノデの生育に適した場所ではなかった可能性がある。道志山地では丹沢山地と比較して個体数が多く、葉サイズも大きく、ソーラスを付けた成熟個体も多数確認できたことから、良好な状況と判断できる。しかしながら、 20個体に満たないこと、シカの影響もあることから予断を許さない。ヤシャイノデの保全に向けて、野生個体とともに植物愛好家の栽培個体を含めて詳細な遺伝解析をしたうえで、増殖を準備する段階にきている。

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