保全生態学研究
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小笠原諸島固有の絶滅危惧植物ヘラナレンとユズリハワダンの生態学的現状の把握と保全策の提案
後藤 章鷲谷 いづみ
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2001 年 6 巻 1 号 p. 1-20

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抄録

小笠原諸島母島における絶滅危惧植物ヘラナレンCrepidiastrum linguifolium(A.Gray)NakaiとユズリハワダンCrepidiastrum ameristophyllum(Koidz.)Nakaiの保全計画立案の資料とするため,両種の分布(生育場所およびその環境,個体数),個体群の現状,および種子による繁殖に係わる生活史ステージ(訪花昆虫,種子生産,発芽,実生の定着)の状況について調べた.生育場所としてはヘラナレンは主に「草地」,ユズリハワダンは「湿性林」に分布していたが,いずれの種においても,20個体以上の個体群は2つしか残されていなかった.花には在来のハナバチ類の訪花は確認されなかった.両種とも孤立個体においては種子生産が見られず,ユズリハワダンでは1997年には30個体未満の小さな個体群で結実率が低く(8%以下),1998年にはすべての個体群で結実率が5%以下であった.孤立個体の近くでは,実生の定着を確認することができなかったが,大きな個体群の中では比較的多数の実生の定着が認められた.ヘラナレンの1つの個体群を除き,1997年から1998年にかけての死亡率は,両種とも50%を越え,台風による被害が主要な死亡要因であることが示唆された.ヘラナレンとユズリハワダンともに残存個体群の数および個体数が少なく,個体群の運命が確率変動的な要因に左右される可能性が大きいことが示された.絶滅の可能性を引き下げるための対策としては,生育適地と考えられる場所への種子の導入および適切な管理によって新しい個体群を確立させることが考えられる.

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© 2001 一般社団法人 日本生態学会

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