湿田の乾田化,用排水路の分離等によって農業の効率性を目指す従来の水田圃場整備に対して,生物多様性保全の観点から様々な問題が指摘されている.2001年6月に土地改良法が改正され,環境との調和に配慮した農業農村整備事業が強く求められることになった.コンクリート水路の土水路化,排水路と水田との連続性確保等の環境に配慮した事業は,生物にとっては望ましいが,現実には従来型の整備による水田が広範に残ることが予想され,これらの区域もまた地域全体の環境に大きな影響をもち続けると思われる.従って,整備済み水田地区において,少なくとも最小限の環境対策の実施が望まれ,その対策を効果的に行うためには,整備済み水田地区における水生生物の生息実態を知る必要がある.その知見は,将来実現が期待される冬季通水の具体的方法を検討する上でも有用である.本研究は,茨城県下館市の圃場整備済み水田地区の排水路を取り上げ,水路レベルを考慮した6調査地点において,2001年4月から2002年3月の間毎月1回定期的に実施した現地調査に基づき,水生生物が種類に応じて幹線,支線および小排水路にどのように分布しているかを,水路構造および非灌漑期における流水の有無に注目して検討し,以下のことを明らかにした.魚類については,オイカワが幹線排水路,ドジョウが支線および小排水路で多く採捕された.水生昆虫については,ハグロトンボが支線排水路,シオカラトンボが小排水路で多く採捕された.オイカワは幹線排水路のなかで,水路底が砂礫の地点で多く,コンクリートの地点で少なかった.ハグロトンボおよびシオカラトンボは支線および小排水路のなかで,1年中流水がある地点で多く,非灌漑期に流水がない地点で少なかった.逆に,ノシメトンボは小排水路のなかで,1年中流水がある地点で少なく,非灌漑期に流水がない地点で多かった.以上の調査結果から,水田圃場整備によって造成された排水路系は,水深,流速等に関して特徴ある物理環境を有する幹線,支線および小排水路から成っており,また水生生物がそれぞれの水路レベルに応じて生息していると解釈すべきことを明らかにした.今後,より一層整備済み水田地区を生物相豊かな環境にするためには,より多くの水路に1年中流水を確保すること,水路底をコンクリート化しないことが重要である.