保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327

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二つの法と行政の系列による鳥獣管理の二重構造問題―北海道エゾシカ管理の事例から
上野 真由美
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ジャーナル オープンアクセス 早期公開

論文ID: 1911

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抄録

ニホンジカの管理に関する問題の一つは、管理にかかわる計画と実行が、二つの法と行政の系列にまたがって支配されていることである。環境省の管理下にある「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」は、主に都道府県によるニホンジカ管理計画の策定に関与しながらも対策に係る予算は限定的である一方、農林水産省の下での「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」においては、市町村等が行う総合的対策(捕獲、侵入防止策、担い手の育成、調査等)を対象とする財政措置がひかれている。両法の究極的目標は、鳥獣と社会の軋轢を軽減するという点で一致しており、縦断的(県と市町村)および部局間(農林業と環境)の連携が必要である。北海道のエゾシカ管理のように鳥獣管理の主管を環境部局が担う場合には、これら 2つの法律が異なる部局(環境部局・農業部局)の管轄に分かれ、農業部局から財政措置が施される市町村のエゾシカ対策に環境部局が直接関与することは簡単ではない。さらに本州と違う点として、北海道が本州以南の 15都府県に相当する大きさであることから、(総合)振興局が本州以南の県に相当し、市町村と北海道を結ぶ縦断的階層の中間的役割を担う点が挙げられる。このような点に関する学問的な論文は存在するが行政的な解決策は示されておらず、縦割りへの具体的な対応方法の経験とアイデアの共有は現場にとって重要である。本事例では鳥獣管理の統括的な体制を築くために、実験的に振興局単位での会議を企画し、関連部門(農林業と環境)の複数階層(県から市町村)の担当者を参集した。行政に限定した会議構成員であったことから、予算執行における自治体の悩みなど、行政的な課題をより深く意見交換することができた。このように環境が主管である都道府県の場合には、計画と実行のずれを自覚し、縦断的かつ横断的連携を築いていく仕組みが必要だと考える。

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