保全生態学研究
Online ISSN : 2424-1431
Print ISSN : 1342-4327

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市民参加型調査で集めた位置情報付き生物写真にサンプリングバイアスは存在するか?─市民と専門家の遡河性サケマス関連撮影データの比較から─
佐橋 玄記丸山 緑有賀 望森田 健太郎岡本 康寿向井 徹水本 寛基植田 和俊藤井 和也渡辺 恵三大熊 一正荒木 仁志
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ジャーナル オープンアクセス 早期公開

論文ID: 1930

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抄録

市民参加型の調査の中でも近年特に増えているのが、位置情報を付与した生物のデジタル写真を市民から集める取組みである。この取組みでは、投稿写真を基に専門家が種同定を行うことができるため、生物に詳しくない市民でも気軽に参加できることに加え、専門家だけでは把握の難しい、広域かつ詳細な生物分布情報が得られる。一方で、市民が投稿する写真データにどのような特徴が存在するのか、その客観的評価が行われている事例は少ない。札幌ワイルドサーモンプロジェクト( SWSP)で実施した「みんなでサケさがそ!」という企画においても市民投稿写真を基に広域生物分布データの収集を行ったが、この中には専門家によるデータも多く含まれていた。そこで、本研究では「みんなでサケさがそ!」に集まった市民と専門家の 4年分のデータを解析し、両者間で被写体と撮影場所、撮影時期にどのような違いがあるか、比較検討を行った。解析の結果、被写体に応じた統計的に有意な違いは検出されなかった。一方、市民の投稿写真は専門家の写真に比べ、撮影しやすい橋周辺に集中する傾向が見られた。更に専門家の撮影時期がサケ科魚類の遡上初期や終期を含め網羅的であったのに対し、市民は撮影時期が遡上最盛期に集中していた。今後は市民と専門家のデータの間に異なる傾向が生じうることを念頭に、市民から得られたビッグデータをどのように補正・取捨選択すれば、実際の研究や保全戦略に最大限活用できるのか、考えていく必要があるだろう。

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© 2020 一般社団法人 日本生態学会
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