2015 年 23 巻 p. 142-147
熱揺らぎが凍結する極低温において,乱れの下で進行する一次相転移のダイナミクスは興味深く,新たな量子効果の発現も期待できる.我々はシリカエアロジェルという多孔体中での4Heの結晶化過程を可視化することにより調べた.結晶化過程は温度によって大きく変化し,高温では滑らかな界面進行(クリープ)によって成長し,低温では雪崩的に成長することが分かっていた.これは熱揺らぎと乱れの競合による結晶成長様式の転移であると考えられる.結晶成長速度や核生成確率の温度依存性の測定から,クリープは熱揺らぎによる成長,雪崩は量子トンネル効果による成長であることが示されていた.また雪崩のサイズ分布が冪的振る舞いをすることから,系が自己組織化臨界状態にあることも分かっていた.今回我々はこの研究を更に押し進め,圧力一定のもとでの冷却によっても結晶化が進むことを見出した.結晶と液体の密度差を補うために,結晶化の進行にはエアロジェルを取り囲む4He結晶から,エアロジェル中への質量の供給が不可欠である.エアロジェル中での結晶化の進行は,それを取り囲む結晶中での質量輸送が可能であることを意味し,近年話題となっている4He結晶の超固体性と関連すると考えられる.ただし結晶化の開始温度は,過去に報告されている超固体転移温度とは一致せず,より低温であった.このことは,質量輸送が可能な超固体転移温度以下であることは必要条件であって,それと同時に多孔体中での結晶相の安定領域に入って初めて結晶化が進むことを意味している.超固体性と多孔体中での結晶化の複雑な相互関係を示した初めての結果を得ることができた.