2024 年 31 巻 p. 103-106
複数の金属イオンと架橋元素から構成される多核金属錯体は,ナノスケールの無機材料として,その合成法の開発と触媒や材料としての応用に関する研究が盛んに行われている.中でも複数の鉄イオンと架橋オキソ配位子を含む多核鉄錯体は,ナノスケールオーダーとした酸化鉄のナノ粒子であり,その触媒特性や磁性などの諸性質に注目が集まっている.本研究では,3価の鉄錯体に対して紫色~青色光を照射すると,鉄周囲の配位子が解離して光還元が進行する性質を活用し,様々な核数の多核鉄錯体を与える反応条件下でのカルボン酸の変換に関わる光触媒特性を見出した.特に鉄塩とカルボン酸から生じるカルボキシラート配位子を有するオキソ架橋多核鉄錯体が光触媒反応における触媒活性種となり,光照射によりカルボン酸が脱炭酸を起こし,生じる有機ラジカルが不飽和炭化水素に対して付加反応を起こすことで,新たな有機合成反応に展開できることを明らかにした.