抄録
1984年の夏期に岡山県下において捕獲されたシマヘビ12個体について,マンソン裂頭条虫のプレロセルコイドの感染状況を検索するとともに,寄生を受けたヘビの組織学的観察を実施した。観察に供したシマヘビのすべてにプレロセルコイドが認められ,ヘビ1個体あたりの寄生数は67~486(平均323)隻であった。ヘビにこのように多数の虫体が高率に寄生するのは,ヘビがプレロセルコイドの感染を受けているカエルを捕食することによって,その体内にプレロセルコイドが蓄積されるためで,一種の“生物濃縮”であると考えられた。ブレロセルコイドは,主としてシマヘビの皮下,筋肉内,および漿膜に認められた。組織学的所見としては,皮下に寄生する虫体に対しての細胞反応は一般に軽微であったが,胃壁の付近に位置していたプレロセルコイドの周囲には,しばしば酸好性細胞の浸潤が認められた。また,筋肉内に寄生するものでは,ときおりその周囲の筋組織の圧迫あるいは融解像が観察された。このことから,多数のプレロセルコイドの寄生を受けたシマヘビでは,主として筋組織への障害によって,その運動能力が低下し,その結果,終宿主である食肉目の動物に捕食される機会が増大するものと推察される。このプレロセルコイドの寄生によるヘビの筋組織の障害と,それによって引き起こされるであろう終宿主への感染機会の増大は,寄生虫の適応戦略の一つと考えられる。