抄録
渓流繁殖性ナガレヒキガエルの繁殖活動を3シーズンにわたって調査した.繁殖活動は4月前半の短期間(12-14日)であった.産卵は淵で行われ,産卵期間は5-11日で,川全域では14-17日だった.繁殖期の初めに川沿いの林道の特定の区間で,川への移動途中の個体が多数捕獲された.淵では約300個体が捕獲され,性比は2.0-2.4:1で雄に偏っていた.淵での出現個体数の日変動のパターンは繁殖期間の中頃にピークをもつ正規分布型を示した.日中でも繁殖活動は見られたが,夜の方が活発であった.川への移動開始は気温よりも地温の影響を受けると思われ,最高地温と最低地温の3年間の範囲はそれぞれ,10.0-11.0℃と8.5-9.0℃であった.淵での産卵活動はふつう,繁殖期間の後半に最低水温が10.0℃を超えた時に行われた.繁殖活動は繁殖期間中の気象の影響を強く受けるとは思えなかった.これは本種の繁殖行動が安定した水温の水中で行われるためと考えられる.