印度學佛教學研究
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『金光明経』における儀礼と説法師について
――大乗経典の「密教化」の一例として――
日野 慧運
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2010 年 58 巻 3 号 p. 1187-1191

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抄録

『金光明経』(Suvarna(pra)bhasottamasutra=Suv)は,懺悔滅罪を教理的核としつつ,『般若経』『法華経』の影響を強く受けた中期大乗経典である.一方で,その呪句・儀軌の詳細・豊富さから,チベットにおいては密教経典として分類されてきた.大乗仏教と密教の要素を併せ持つこのSuvを,増広発展にともなって密教的色彩が漸次濃くなってゆく形成史上の性格も考えあわせて,筆者は大乗仏教から密教へというインド仏教思想史上の過渡期を体現する経典と位置づけるのが適当と考える.このような視座に立ちつつ,本稿ではSuv中の「四天王品」において説かれる説法師供養のための「法の聴聞のための供養儀礼」を検証する.この「供養儀礼」は初期大乗に一般的な供養法の要素を具えると同時に,一尊格を礼拝の対象とし,行法の果報として勧請・成就・除災等の現世的利益を期するという点において,いわゆる雑密経典における儀礼に共通する性格を持つ.「供養儀礼」のこのような性格を明らかにしたうえで,この「供養儀礼」と,Suv中の「弁才天女品」(Sarasvati-parivarta)に表れる「呪薬洗浴法」(snanakarman),および「四天王品」の増広部分(義浄訳『金光明最勝王経』のみ)に表れる「多聞天勧請儀礼」という密教儀礼を比較し,両者が「供養儀礼」に牽引されて導入されている構造を明らかにする.さらにそこから,説法師(dharmabhanaka)がその導入に関わった可能性について考察する.

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© 2010 日本印度学仏教学会
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