印度學佛教學研究
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アルジャイ石窟寺院
――聖救度佛母二十一種禮讃經について――
山口 周子
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2010 年 58 巻 3 号 p. 1267-1271

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抄録

本稿は,アルジャイ石窟寺院内の第32号窟に描かれた二十一多羅佛母の尊像と,それらに添えられた多羅佛母讃のテキストに関する比較研究,および報告を目的とする.アルジャイ石窟寺院は,中国内モンゴル自治区西部に広がるオルドス高原に位置し,北魏時代から明代にかけて増築・造営を繰り返されたものと見られている.また,モンゴルでは珍しく,カギュ派の寺院である.本稿で扱う二十一多羅佛母讃は,第32号窟の壁画として描かれた各多羅佛母図の上下左右に添付されている.梵語,蔵語,モンゴル語の3種の言語による多言語(polyglot)テキストである.この3言語の内,梵語と蔵語は各尊像図に対応しているが,モンゴル語は主尊および第1尊讃の代わりに,尊格を儀礼の場に招聘する句を置いているため,図像と讃の間には2つずつの齟齬が生じている事が,今回確認された.さらに,同じく多言語テキスト(梵,蔵,モンゴル,漢語)の形式を持つ多羅佛母讃の木版テキスト(明代)と対応させた結果,壁画テキストとは概ね一致していた.特に,モンゴル語の部分は,清代印行とされるカンギュル(ガンジョール)に含まれる多羅佛母讃よりも,明代の木版の方に類似していることが分かった.また,第9尊尊像図にも問題が見られた.壁画では,青色の立像,憤怒尊の姿で描かれている.しかし,上記の木版版や大正大蔵経,西蔵大蔵経ではいずれも,赤色(padmaraga)の座像で描かれることが示されている.上記のような問題が生じた原因については,未だ不明である.従って,今回はあくまで指摘,報告するに留めておきたい.また,壁画上の全テキストと尊像図との対応を公開する事も,今後の課題である.

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© 2010 日本印度学仏教学会
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