印度學佛教學研究
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クシェーメーンドラ本ダルマルチ・アヴァダーナについて
――商人航海譚・燃燈仏授記を中心に――
山崎 一穂
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2011 年 59 巻 3 号 p. 1147-1152

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抄録

本論文では,クシェーメーンドラの仏教説話集Bodhisattvavadanakalpalata第89章所収の説話Dharmarucyavadanaを取り上げ,Divyavadana(Divy),Mahavastu(Mvu)等に存する並行話と内容比較することにより,その源泉資料の解明を試みた.尚,当該章の後半部をなす「三無間業物語」についてはSilk[2008]による研究があり,該当部はDivyの伝承を基に著されたことが明らかにされている.従って本論文では考察対象を前半部の「商人航海譚」「燃燈仏授記」に限定して論考を進めた.クシェーメーンドラ本は細部にわたってDivyの所伝と合致し,クシェーメーンドラの用いた種本が現行のDivyの所伝とほぼ同形のものであったことが推定される.これに対しクシェーメーンドラが物語を著すに当たり,Mvu等に見られる並行伝本を参照していた,或いは彼の用いた種本にそれらの要素が含まれていた可能性は低い.無論クシェーメーンドラ本とDivy本との間に相違点も見られるが,これは太陽の数の相違や固有名詞の付加といったものにほぼ限定されている.以上から,クシェーメーンドラは当該章で種本の物語を忠実に伝える一方,太陽の数の改変によりヒンドゥー教の一般読者層を意識し,人物名を与えることで登場人物の性格や特徴を間接的に示すなど,細かい点で物語の完成度を高めようとしていたことが指摘され得る.

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© 2011 日本印度学仏教学会
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