印度學佛教學研究
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「十万頌般若経」(第二部)のラサ写本について
Pannaloka DENIYAYE
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2011 年 59 巻 3 号 p. 1164-1168

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抄録

2009年に北京大学の梵文写本仏教文献研究所(Research Institute of Sanskrit Manuscripts and Buddhist Literature)から「十万頌般若経」写本(「ラサ写本」と略記)がインターネットで公開された.この「ラサ写本」と九州大学にある「九大写本」が現存する「十万頌般若経」第二部(dvitiyakhanda)の貝葉写本である.現在,梵文「十万頌般若経」校訂版としては,2009年から出版されている木村高尉校訂版(Satasahasrika Prajnaparamita II-1,II-2,II-3)は主に十九世紀以降のネパールの紙写本に基づいているように見られる.上記の二つの貝葉写本を比較して見るとラサ写本は短いが正確で読み易い写本である.ラサ写本は「十万頌般若経」の第十二章から第十六章の途中までに相当する.それは「十万頌般若経」第二部の3分の1ぐらいの長さである.「須菩提品」や「天王品」が含むこの巻は玄奘訳般若波羅蜜多経初会の「無所得品」(T5,305b)から「求般若品」(521a)の部分に一致すると見られる.九大写本では貝葉が欠けている部分が多くあり,ラサ写本では葉の順序の間違いが少しある.ラサ写本の文字は紀元11世紀から13世紀頃のProto-Bengali-cum-Proto-Maithili文字に近い.写本冒頭の礼拝文である「namah sri candamaharosanaya」は初期大乗経典の写本には珍しく,ラサ写本が作成された時代を探る大きな手掛かりとなろう.本文の中で幾つかの具体例を挙げて説明しているように,ラサ写本と九大写本をネパール紙写本と比較して見ると貝葉写本二本は正しい読みを保ち漢訳やチベット訳とも良く合っている.ラサ写本には九大写本よりも正しい読みがを示すことがあり後者の欠けている貝葉も全て残されている.ラサ写本は今後の「十万頌般若経」の文献学的研究において今まで発見された写本の中でも特に優れた役割を果たすであろうと考えられる.

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© 2011 日本印度学仏教学会
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