印度學佛教學研究
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AhirbudhnyasamhitaにおけるSuddhetarasrsti説
三澤 祐嗣
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2013 年 61 巻 3 号 p. 1119-1123

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抄録

サーンキヤ思想は,世界の成り立ちを一定数の原理に分類し分析するものであり,古くからインド思想の根幹を担ってきた重要な思想の一つである.その思想は古典サーンキヤをもって体系化されたのであるが,ウパニシャッド文献や『マハーバーラタ』などに見られる説は体系化以前の段階であり,初期サーンキヤと呼ばれる.このサーンキヤ思想はヒンドゥー教における宇宙論の形成にあたって多大なる寄与をなした思想であり,特にヴィシュヌ派の一派であるパーンチャラートラ派とは,その初期段階から密接な関係があった.Ahirbudhnyasamhitaはパーンチャラートラ派の重要な文献であり,この書で説かれる宇宙論は創造を3つの段階に分け,第3段階にいたって実際の経験世界の出現に至る.この第3段階はsuddhetarasrsti(「不浄なる創造」)と呼ばれ,サーンキヤ思想の理論が用いられている.本稿では,Ahirbudhnyasamhitaのsuddhetarasrsti説を取り上げ,初期サーンキヤや古典サーンキヤとの比較を通じ,その思想内容と影響関係の検証を行った.ここで説かれている説は,古典サーンキヤと類似して見えるのは確かであるが,細部が異なる.そして,それは初期サーンキヤなど古代の影響を残しつつ,古典サーンキヤの理論を取り入れ,パーンチャラートラ派の教義へと融合させているのである.

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© 2013 日本印度学仏教学会
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