ミーマーンサー学派のクマーリラは,『タントラヴァールッティカ』で,パーニニ文法学の「権威(pramana)」である三聖,すなわちパーニニ,カーティヤーヤナ,パタンジャリの作品から「言い間違い(apasabdana)」としていくつかの語形を列挙して批判する.クマーリラの批判の主眼は,ひとえにそれらの語形が非パーニニ文法的である,という点にある.後代の文法学者はこれらをパーニニ文法の枠内で説明しようと「既成形(nipatana)」や「アークリティ・ガナ(akrti-gana)」といった道具立てをも用いて論じるが,これらの道具立てにはミーマーンサー学者からの更なる批判が向けられていた.一連の議論を総合すると,文法学という学問に対して文法学者自身が抱いていたイメージと,ミーマーンサー学者が期待していたそのあるべき姿との差異が浮き彫りになる.