印度學佛教學研究
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パーリ語動詞の分析的および融合的活用形について
山中 行雄
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2016 年 64 巻 3 号 p. 1125-1132

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抄録

パーリ語を含む中期インド語動詞の一人称変化形において,分析的語形(analytic form)ならびに融合的語形(coalescent form)が現れる.分析的語形とは,活用変化よりも人称代名詞によって,動詞人称を表現する語形である(例:jahe aham "私は捨てたい", Ja III 14,15*).一方,融合的語形とは,動詞の直後に人称代名詞が配置され,動詞活用語尾と連結し,人称代名詞が活用変化の一部であるかのように現れる語形を指す(例:puccheyyam' aham "私は質問したい", D I 51,3; nanutapeyy' aham "私は後悔するつもりはない", Ja IV 241,19*).融合的語形から,ahamに由来する-hamが,-amiに代わって人称語尾として使われるような新語形も生まれる(例:palayaham "私は逃れる", Ja II 340,9*; ramaham "私は喜ぶ", Ja V 112,31*).Helmer Smithは,この語形がアパブランシャに見られる-auという一人称語形へと発展していくと論じた.したがって,この語形は,当時の俗語的・口語的な用法を反映している可能性もある.上記の諸語形の特徴は,人称代名詞ahamが,動詞の活用語尾の補強あるいは代替要素として使用されていることである.これら活用形のパーリ語における用例については,Critical Pali Dictionaryに収集・分類されている.本稿では,これらの先行研究に基づきつつ,この分析的語形と融合的語形の特徴,さらに統語論的な役割を考察する.

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© 2016 日本印度学仏教学会
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