印度學佛教學研究
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sTeng lo tsa ba Tshul Khrims 'byung gnas
―― 『律経自註』のチベット語翻訳者――
米澤 嘉康
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2016 年 64 巻 3 号 p. 1147-1154

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抄録

『律経』は,チベットにおける教育課程における重要な基本的なテキストの一つである.その『律経』はチベットの前伝期において知られていたが,その自註とされる『律経自註』(Vinayasutravrtry-abhidhana-svavyakhyana)は後伝期になってチベット語に訳出された.その翻訳は,カシミール出身のアランカーラデーヴァと,チベット人のツルティム・チュンネーによってなされた.本稿では,まず,『律経自註』の書誌情報を提供する.そのなかで,『律経自註』はマトゥラーで伝承されていたことを明らかにする.次に,カシミール出身のアランカーラデーヴァ(Alankaradeva)とチベット人のツルティム・チュンネー(Tshul khrims 'byung gnas),それぞれの略伝を『青史』(Deb ther sngon po)などによって確認する.そのなかで,チベット人のツルティム・チュンネーは,翻訳官(lo tsa ba)として活躍したばかりでなく,サンスクリット語写本をチベットにもたらした人物であることが明らかになる.その物証としてウメ字で筆写されている『律経』写本表紙の記述を指摘する.最後に,ツルティム・チュンネーのインドでの交遊関係から,12世紀の汎チベット文化圏を想定することを提言している.

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© 2016 日本印度学仏教学会
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