印度學佛教學研究
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Saroruhavajraの説く成就法について
松村 幸彦
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2016 年 64 巻 3 号 p. 1232-1236

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抄録

Saroruhavajraは後期インド密教を代表する聖典の一つであるHevajratantraの成立に関わったとも言われる人物で,その活動年代は9世紀から10世紀と推測される.彼はPadmavajraという別名も持っており,同名異人とされる人物が多く存在している.また,彼はインド密教だけではなく,チベット密教においても与えた影響は大きかったと思われ,非常に重要な人物である.にもかかわらず,彼に対する研究は殆ど見出されない.そこで,本稿の目的は,彼の著した成就法であるHevajrasadhanopayikd (=HeSU)を採り上げ,同テキストに対する註釈書jalandhari(別名Suratavajra)著Vajrapradipa (=VP)を適宜参照しながら,その基本的構造や特徴について明らかにすることにある.尚,HeSUは既にCIHTSから校訂テキストが出版されているが,校訂ミスと思われる点など問題を多くはらんでいる.VPは現在写本が複数存在しており,校訂テキストは出版されていない.VPは32の項目名が最初に挙げられ,これらの内容によって註釈を行っているが,そのスタイルは逐語的なものではなく,Jalandhari自身の成就法という側面が強いように思われる.HeSUは大きく分けると,帰敬偈,本論,廻向偈の三つに分けることが出来る.本稿では本論の内容について概観する.観想を行うヨーガ行者は,尸林などに立ち,自身の心臓の上に日輪とhum字を見て,虚空に光線を発し世尊を引き寄せ,供養をする.そして,懺悔・随喜などを行い,マントラを唱えて,観想する場所の防護を行う.VPでは『秘密集会タントラ』などに説かれる十忿怒が防護輪の中に説かれている.Hekaravajraの尊容などが述べられた後,配偶尊との性的瑜伽などが説かれ,液体の状態になった世尊が金剛歌により目覚める.この時行者はHekaravajraと一体となっている.この後,智輪と三摩耶輪の合一や四刹那・四歓喜・四灌頂,そして念誦や甘露供養,バリ,誓願などが説かれて本論は終わる.今後は他のSaroruhaの著作を中心に解析し,成就法を中心とする儀礼とその背後の思想を明らかにしていく.

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© 2016 日本印度学仏教学会
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