印度學佛教學研究
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バリ・ヒンドゥー教における通過儀礼
―― 「トゥルブラニン儀礼」を中心として――
山口 しのぶ
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2016 年 64 巻 3 号 p. 1329-1336

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抄録

インドネシア,バリ島においては人口の90パーセントがヒンドゥー教徒であり,多くのヒンドゥー寺院や家庭で儀礼がさかんに行われる.本論文では通過儀礼(マヌサ・ヤドニャ)の一つである生後3ヶ月の子どもの儀礼「トゥルブラニン」を取り上げた.トゥルブラニンは乳児が初めて固形物を口にする儀礼であるとともに,天界にいた赤ん坊が初めて人間社会に足を踏み入れる儀礼でもあり,バリ・ヒンドゥーの通過儀礼の中でも重要視される.トゥルブラニン儀礼は,大きく分けて(1)家庭寺院で行われる準備的儀礼,(2)「バレ・ダンギン」という建物で行われる中心的儀礼の2つの部分からなる.(1)においては,儀礼を行うプマンク僧は太陽,ブラフマ,シワ,ウィスヌの三神に礼拝し,豚の丸焼きなどを神々と祖霊に捧げる.(2)の中心的儀礼においては,まず僧は子どもとその両親を聖水で浄化し,子どもが生涯食べ物に困らないようにアヒルとニワトリとに対面させる.その後僧に抱きかかえられた子どもは地上に3回足をおろす.また装飾品を身につけ,神々に守護を頼む行為が行われる.トゥルブラニン儀礼は赤ん坊のバリ・ヒンドゥー社会へのイニシエーションの機能を果たし,その中では生涯におけるバリ・ヒンドゥー教徒と神々,祖霊との関係が諸行為を通じて端的に表されている.この儀礼の内容はインドの通過儀礼であるサンスカーラの内容とは類似していないが,儀礼の際唱えられる文言や賞賛偈などで,バリ語の他にサンスクリットや古ジャワ語が用いられ,インド的な要素とジャワ的な要素がバリ固有の要素と混在している.これら複数の要素の詳細な分析については今後の課題である.

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© 2016 日本印度学仏教学会
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