印度學佛教學研究
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Subhāṣitaratnakaraṇḍakakathāの作者について
山崎 一穂
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2018 年 66 巻 3 号 p. 1056-1062

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抄録

Subhāṣitaratnakaraṇḍakakathā(SRKK)は六波羅蜜の実践を説く191の詩節の集成である.SRKKは詩人Śūraの作とされるが,彼が4世紀に活動した同名の仏教詩人ではないことはSRKKにŚāntideva(西暦7–8世紀の間)のBodhicaryāvatāraからの詩節引用があることから明らかである.またŚūraの活動年代の下限はSRKKのチベット訳の年代から推定し11世紀に置くことができる.17世紀のチベット僧Tāranāthaが著した史書には,8世紀のパーラ王朝のGopāla一世の同時代人として学僧Śūraの名が現れる.従って彼がSRKKの作者である可能性が考えられるが,このŚūraをJātakamālā(GJM)の作者である仏教詩人Gopadatta(西暦5–8世紀の間)と同一人物と見る見解もある.本論ではSRKKとGJMで用いられる〈飾り〉(alaṃkāra),韻律,文体の用例に注目し,ŚūraとGopadattaの同一人物説を検証した.その考察結果は以下のように要約できる.

SRKKには,GJMに特徴的な,比喩基準と比喩対象が性・数・格の点で一致しない〈直喩〉(upamā)の用例が等しく見られる.この点だけに注目すると,ŚūraとGopadattaが同一人物である可能性は排除できない.しかし両者の作品には使用される韻律の傾向に相違がある.またSRKKには長い複合語を用いて神々と侍女の沐浴を描く詩節の用例が見られるが,GJMには同様の用例が見られない.興味深いことに,長い複合語で水遊び(jalakrīḍā)を描く詩節は9世紀以降に著されたヒンドゥー教宮廷詩に顕著に見られる.この事実を考慮に入れると,Śūraが9世紀頃の作品の美文作品を知っており,これを自作にとりいれた可能性が考えられる.従ってŚūraとGopadattaが同一人物であることはあり得ず,前者は西暦9世紀以後に活動した詩人と見るのが妥当と思われる.

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© 2018 日本印度学仏教学会
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