印度學佛教學研究
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パーリ上座部における三蔵観――結集と隠没・書写聖典・経巻崇拝――
清水 俊史
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2018 年 66 巻 3 号 p. 1079-1084

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抄録

本研究では,上座部における聖典観を,北伝仏教のそれと比較した.具体的には,次の三点を明らかにした.(1)有部は現行の三蔵が成立した過程について明示的な伝承を有しておらず,さらに既に本来あった教説の大半が失われてしまった後のものであると理解している.一方の上座部は三度の結集によって現行の三蔵が完成し,それは現在に至るまで何一つとして失われていないと理解している.(2)上座部は正法(三蔵)を久住さるための教団事業として,書写による聖典伝持を取り入れたと記録される.しかし,書写された三蔵聖典は正法そのものではなく,正法の有無は三蔵を憶持する人の有無によって判断される.書写聖典そのものが正法たり得ないという理解は有部も同様である.(3)経巻崇拝を上座部は否定的に評価した.この理由は,仏舎利と経巻を等価として理解し得なかった上座部教理が背景にあると考えられる.この経巻崇拝への態度は,崇拝の対象として仏舎利と経巻を等価に理解する大乗仏教とは大きく異なる.

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© 2018 日本印度学仏教学会
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