2018 年 66 巻 3 号 p. 1127-1131
『ヴァジュラジュヴァーローダヤー』(Vajrajvālodayā)は,9世紀の密教僧アーナンダガルバ(Ānandagarbha)の著作であり,『サマーヨーガタントラ』(Sarvabuddhasamāyogaḍākinījālaśaṃvara)に基づく儀軌書である.同書にはサンスクリット写本1本が現存するが,未校訂のままである.Alexis Sanderson氏により内容の一部が取り上げられ,Harunaga Isaacson氏により写本の紹介がなされたものの,全容は明らかになっていない.著者は現在,このテキストの校訂本を準備している.
本稿では,まず『ヴァジュラジュヴァーローダヤー』の前半部分に説かれる準備的な儀礼について,そのシノプシスを提示する.それと共に,同じアーナンダガルバの著作で,『真実摂経』(Sarvatathāgatatattvasaṃgraha)に基づく儀軌書である,『サルヴァヴァジュローダヤー』(Sarvavajrodayā)と『降三世曼荼羅儀軌』(*Trailokyavijayamaṇḍalopāyikā)の前半部分を取り上げ,それらの構成を比較した.
その結果,三つの儀軌書は,依拠する典籍が異なるにもかかわらず,非常に類似した構成を持つことが判明した.このことは,三作品が同じ著者によるものであるという見解を裏付けるものである.